『日本人のための憲法原論』小室直樹
この本はAmazonレビューでもかなり高評価だったのですが、読んでみて納得しました。
わかりやすい!憲法学
この本はまさに、わかりやすい!憲法学と言えるでしょう。
現在の日本と日本国憲法が、様々な問題を抱えている現状について、西洋史まで遡って論じます。
そして、国際関係、政治、経済、宗教など様々な切り口からどのような社会的な選択、変遷を経て日本国憲法が出来上がったのかを全492頁で熱く伝えています。 西洋史と日本国憲法がつながっているという事実がわかる、まさに「目から鱗」になる本です。
正直、世界史の授業を受けるよりもこの本を読む事の方が十分意義があるように思います。
資本主義ってなに?
民主主義的政治ってなに?
日本は民主主義国なの?
といった疑問に答えを与えてくれます。
確かに、1人の学者の意見という見方もあるでしょうが、それよりもこれほどまでに多角的な視野でダイナミックに物事が起きた背景を論じることができる学者は日本にどれだけいるのでしょうか。
私のような素人にも読みやすいように、著者と編集者の掛け合いが合間合間にあって、著者が「伝えたい!」と思っていることがひしひしと伝わってきます。 それと同時に自分の無知にも気づくことができました。
この本が書かれたのは、10年以上前ですが、当時の日本が置かれた姿に危機感を抱いていた著者が晩年に残した遺作といっても良い本ではないでしょうか。
小中高で学んできた事を再び大人になって学び直すという事の必要性をこの本に出会ってから深く認識しました。
憲法とは誰が為のものか?
私がこの本の冒頭でまず目から鱗だったのは次の点
この解釈は憲法学者の中でも賛否はあると思われるますが、著者は法律は国家権力という強大な力を抑制するために必要なものと認識しています。
自分自身は、法律は国民の行動規範のようなもののイメージが強かった。また裁判も被告人を裁くものと思っていた。
しかし、本質的にはそうではなく、強い権力を持った検察、行政を裁く為のものとして存在しているという事実。
そして、 憲法は、司法、立法、行政の権力に対する命令 つまり、憲法もまた、国民のためではなく、司法、立法、行政を取り締まる為のものである。
そして、今の日本が陥っている現状はこの「憲法が死んでいる」ということに起因しているという。
強い権力は乱用される。
これは過去の歴史を遡ると必ずそうなると言えることがこの本からわかります。
その為、権力を抑える力が必要で、その役割を宗教と憲法が担っているのだとか。
今の日本は「憲法が死んでいる」
しかしながら、今の日本はこの憲法が正しく機能していない。
日本国憲法はGHQが作成した憲法原案がほぼそのままの形で残っています。
それは、元をたどるとアメリカの憲法の元となったロックの「社会契約論」の精神が息づいていると言うことです。
社会契約論とは国民は納税する代わりに国と契約を結ぶというもの。
その契約の内容が憲法であり、国が定める公約もの契約の一つなのです。
しかしながら、日本では、政党が掲げる公約は守られないことが多く絵に描いた餅のような存在になっている。
ここまで、憲法が死んだ存在になってしまったのは、日本には憲法はあるがそれを支える精神がないということが原因ではないかと推測しています。
「民主主義を目指しての日々の努力の中に、はじめて民主主義は見いだされる。」
今再び起きている改憲の論議を聞いて、著者がどのような発言をするのか、聞いてみたかったです。